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2014年4月8日火曜日

「氷を抱きしめたような」気分……ことばの内側へと、奥へと、視線が、思考が伸びていく

「わたしの重さがわかるのお前?」
鬼と化した女を殺し、男は呆然と座り込む。
「お前は淋しいってことがどういうことだか、わからないんだね? 淋しいということばを知らないんだね?」と女の声。
女は桜に埋もれていく。
「山賊のことばでなければいえないこともあるぜ!」と男は花びらを掻きわける。
男が山刀を抜いて空を切ると女の悲鳴。


山賊のことばでなければいえないことって、なんだろう?
この問いについてぼくらの思考をすすめることが、『桜の森の満開の下』の作品世界を考えることなのだ。坂口安吾は『文学のふるさと』のなかで「氷を抱きしめたような」気分と書きつけている。「絶望」や「孤独」ではぼくらの思考がそこで完結してしまいそうだが、「氷を抱きしめたような」気分となると、そのことばの内側へと、奥へと、ぼくらの視線が、思考が伸びていく。“山賊のことば” とはことばの奥へと分け入っていったところに浮上することばといえないだろうか? 文学というものは、普段ぼくらが日常生活のなかで口にしていることば、つまり社会に属していることばと骨身を削るような格闘を通して、創り出されることばの世界だと柄谷行人さんはいうのだが、坂口安吾は社会一般のモラルから限りなく“堕落” しようとするところに、文学を創りだそうとする。(『堕落論』一九四七年) 安吾によれば山賊のことばは、限りなく堕落をとげた地点に創りだされる文学のことばなのである。1999年、広渡常敏、「ナイーヴな世界へ ― ブレヒトの芝居小屋 稽古場の手帳」より。)

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 『櫻の森の満開の下』広島公演(東京演劇アンサンブル)

 坂口安吾=作  広渡常敏=脚本・演出  池辺晋一郎=音楽

 日時 2014年4月12日(土)19時開演
           13日(日)14時開演
 会場 広島県民文化センター (中区大手町一丁目)

 料金 2,999円   中高生以下1,000円(自由席)
     *未就学児は入場できません。

2014年3月18日火曜日

男につくすような女は嫌いだっていったよ

女 以前ならこういったよ、お前のつんつんしたところも好きだって。
男 うん、そりゃ……あの時はそういった。
女 いまは?
男 だからいまは、もっと好きだ。
女 ナベカマを並べて男につくすような女は嫌いだっていったよ。
男 ところがこっちの方がナベカマ並べて、お前に首ったけさ。
  ハタキを持って家の中を掃除している女の姿を見るくらいなら、いっそロクロ首の女を見る方がいいといったわ。
男 ああ。たしかにそういった。
女 でも今日からは、わたしもハタキをかけるわ、おナベやおカマも並べるわ。だからもっと抱いて! さあ行きましょう、わたしたちの家へ!
男 (呻く)おう!
     男は女を背中にのせる。
   ごうごうと音をたてて降りしきる花びら。
男 ううう……急に重くなったな。

女 わたしの重さがわかるのお前?

2014年2月26日水曜日

お前はわたしの亭主を殺したくせに、自分の女房が殺せないのかえ?

女 (七人のうちの一人を指して)あの女を斬り殺しておくれ。
男 だってお前、殺さなくても女中だと思えばいいじゃないか。
女 お前はわたしの亭主を殺したくせに、自分の女房が殺せないのかえ? それでもお前はわたしを女房にするつもりなのかえ
男 (坤く)よし!
        男は跳びあがり、ダンビラを抜いて女を斬り殺す。
女 つぎは、この女よ!

2013年12月18日水曜日

亭主を斬り殺してわたしを掴みとったとき、お前のことはみんなわたしにわかったのだよ

1990 New York公演パンフレットより
女=真野季節 男=柳川光良

女 みんなはじめはそんなふうなことをいうのよ男は。
男 莫迦な! 俺はさっきからこの五体のなかでうずうずうごめいているものを、お前に受けとってもらいたいとうずうずしているんだ。
女 フフフ、なんだいうずうずばかりじゃないか。
男 そのうずうずがどういったらいいもんやら、俺にはうまく探し出せない。
女 バカだねお前は。麓の道でわたしの亭主を斬り殺してわたしを掴みとったとき、お前のことはみんなわたしにわかったのだよ。それをいまさら山賊のことばでもう一度わたしにつたえようなんて、ほんとに無駄なことだよ。
男 山賊のことばか。山賊のことばでなければいえないこともあるぜ、山賊の五体のなかのうずうずは、とてもお前にわかってはいまい。
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 『櫻の森の満開の下』広島公演(東京演劇アンサンブル)
 日時 2014年4月12日(土)19時開演
           13日(日)14時開演
 会場 広島県民文化センター (中区大手町一丁目)
 料金 2,999円(自由席)

2013年12月7日土曜日

お前は淋しいってことがどういうことだか、わからないんだね?

女=原口久美子
男=公家義徳
女 いやいや、いやよ! お前のような山男が苦しがるほどの山坂を、どうしてわたしがあるけるものか、考えてごらんよ。

女 だめ! (男の首っ玉にしがみつく)わたしはこんな淋しいところにいっときもじっとしておれないの。お前の家のあるところまで休まず急いでおくれ、さもないとわたしはお前の女房になってあげないよ。こんな淋しい思いをさせるなら、わたしは舌を噛んで死んでしまうから。


男 さびしいってぜんたい、なんのことだ?


女 まあ! お前は淋しいってことがどういうことだか、わからないんだね? 淋しいということばを知らないんだね? 無理もない、お前のような山男には淋しいということばなんか入り用でないものね。まあいいわ、つまらないこと考えないでとっととおあるき。


(「『櫻の森の満開の下』脚本 広渡常敏」より)
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 『櫻の森の満開の下』広島公演(東京演劇アンサンブル)
 日時 2014年4月12日(土)19時開演
           13日(日)14時開演
 会場 広島県民文化センター (中区大手町一丁目)
 料金 2,999円(自由席)